この記事はまんがタイムきらら Advent Calendar 2016の18日目の記事です。
こんにちは。先日冬コミのNEW GAME!本の入稿を終えました藤秋すばるです。
今回はNEW GAME!の三角関係カップリングであるしずコウりん(葉月しずく⇢八神コウ×遠山りん)についてお話します。
TL:DR;
- コウりんにおいては八神コウのトラウマが重要なファクターである
- 葉月しずくは八神コウの過去を理解する際に欠かせない存在である
- したがって過去のエピソードからコウりんを掘り下げようとすると、しずコウりん三角関係が登場する
注意
- この記事は二次創作設定(それも割と暗め)をまとめた記事です。苦手な方はご了承ください。
目次
- 前提
- 過去編における八神コウ
- 過去編における遠山りん
- 過去編における葉月しずく
- 遠山りん vs 葉月しずく
- まとめ
- 宣伝
前提
NEW GAME!においてコウりん(八神コウ×遠山りん)がカップリングとして成立していることは周知のことですが[^1]、そこに葉月しずくを加えたしずコウりんについてはあまり認知されていないことと思います。コウとりんは互いに一途な関係を築いていそうに見えますし、葉月さんも阿波根うみこや大和・クリスティーナ・和子との絡みがある中でどうして?と思う方もいるかもしれません^2。
しかし、よく見るとこの組み合わせはなかなかに味わい深く、そして突飛なものではないことがわかると思います。本稿で私は、葉月しずくはコウりんというカップリングのいわば影の部分を浮き彫りにする存在であり、コウとりんの関係性を深く理解するにあたっても重要なファクターであると主張します。
過去編における八神コウ
NEW GAME! 本編において八神コウの過去は最も深く隠されている要素の一つです。原作の二巻の14話(TVアニメ5話)と25話(アニメ最終話相当)で「ギラギラしてて近づきにくい雰囲気」だったこと、新人の子が半年ほどで辞めてしまって落ち込んでいたことだけが伝えられています。原作5巻(THE SPINOFF!)のあとがきにおいては八神コウ過去編は「お話がドロドロしそう」なのでやめたと得能先生自ら明言されており、可愛らしい作風にはおよそ馴染みにくいエピソードであることが察せられます^3。
原作で描かれていないことについて深掘りするのは無粋ではありますが、おそらくこの過去のエピソードは八神コウのトラウマになっている考えられます(初期設定集においても「過去に軽くトラウマを抱えて」いると書かれています[^4] ) 。ここでのトラウマとは、「なぜそれがショックだったのか言語化するのが困難であるような記憶」程度に解釈してください。部下の退職は一般的に見てもショックな出来事でありえますが、それを差し引いても八神コウにとっては消化しきれない部分の残る事件だったと考えられます。
先の初期設定集において、八神コウ(当時は夏目コウ)は「実力主義」で「自分より劣る先輩を見下す傾向にあった」とされています。また、原作14話の遠山りんにより、 「コミュニケーションが苦手だったのは確か」だったと語られています。
こうした性格の八神コウが^5若くしてADになり、そして新人の部下が半年で退職に至った際には、上述の価値観が大きく揺さぶられたことは想像に難くありません。そしてこの価値観は彼女にとっては努力の原動力であったに違いありませんから、その意味でも大きな衝撃だったはずです。初期設定集では上司からコミュニケーションの重要さを教わって考えを改めたという書き方になっていますが、その上司は本編ではいないことになっています(「頼れるのはりんだけだった」画集p.108)。この事件をきっかけに、八神コウはそれまでの自分の価値観を大きく見直すことになったと考えて良いでしょう。
一般的に言って、大きな心変わりをした人は、以前の自分が何を考えていたのか理解できなくなるケースがあります。 この出来事があくまで「トラウマ」なのは、(後輩の退職という)普通の意味での悲しい出来事と、彼女自身の大きな心変わりが同時に起こったからだと言えるでしょう。つらかった上に、そのつらい出来事が過去の自分のどういう考えによって起きたのかが理解しにくくなっているからこそ、人に向かって語れない、というわけです。
NEW GAME! の Blu-ray vol 3.には八神コウと遠山りんのデュエットソング「Little Bitter Duet」が付属してきます。そこでは「終わりの見えぬ道をゆくんだ どんな過去も叩き壊して」という歌詞が出てきます。ここで過去が「叩き壊」されるべきものなのは、それがトラウマだからです。通常の努力によって「克服」したり「乗り越え」たりするのが難しいようなものごと(特にもはや変えられない過去の出来事)は、意志を持って「叩き壊す」他はない。私はこの詞からそういうメッセージを受け取りました。
過去編における遠山りん
さて、そんな過去編の八神に対して、遠山りんはどういう行動を取ったのでしょうか。もちろん彼女のことですから八神コウを献身的に支えるでしょう。これは私の願望なんですが、遠山りんが八神の家に休日通う習慣(原作1巻参照)はこの時期に形成されたものだったら良いなーとか思っています。
話が脱線しました。もちろんこうした支えのお陰で八神は元気を取り戻すでしょうし、2人の仲も相当親密になることでしょう。ところでしかし、ここで一つの疑問がわきます。遠山りんは八神の苦悩について、一体どれだけ理解していたのでしょうか?
遠山りんさんの過去は八神コウ以上に本編で描かれないので謎が多いのですが、少なくとも性格的な部分に関しては入社時から現在までそれほど大きな変化はないように見えます。もともと外向的でコミュニケーションすることが好き(アニメ公式サイトのキャラクター設定より)なことが伺えますし、恋愛感情以外の部分で特にこじらせた部分もなさそうです。そうしたことを踏まえると、八神コウがあの件でショックを受けている姿は、遠山にとっても大きな衝撃だったのではないかという疑問が湧いてきます。
「強かな人間に囲まれて健全に切磋琢磨してきた人間が、びっくりするほどの他人の弱さを目のあたりにしてショックを受ける」という構図はみなさんもインターネットなどで見かけると思います。八神コウにとっては辞めた新人社員が、そして遠山りんにとっては八神コウこそがそれだった、と言うことができるのではないでしょうか。
というわけで、私は遠山りんにはもともと八神のような屈託が存在しなかったように思われます。したがって遠山にとっても、八神コウがどういうことで悩んでいるのか、(彼女なりに考えはするのですが)どうもはっきりは分かっていないのではないかと推定します(後輩がやめた、リーダーとして失敗したことの一般的なショックは理解できるのですが)。したがって、「詳しい機微については理解できないのだが、、それでも分からないなりに寄り添った」というのが八神コウ過去編における遠山りんの立ち位置だったと言えそうです。
過去編における葉月しずく
むしろ残酷なことに、八神コウのトラウマの意味を本当に理解しているのは、遠山りんよりも葉月しずくの方である可能性があります。明言はされませんが、葉月しずくさん顔的にこじらせた過去ありそうじゃないですか(?)。
冗談はさておき、葉月しずくが八神の過去において果たした役割は難しい問題です。原作3巻でのうみことの会話において「それに責任の話をしたら上司である私の責任だし」といった程度の言及があるのみで、具体的に彼女が八神を上司としてどこまで助けたのかははっきりしていません。原作の現在(= 涼風入社後)の時系列では葉月は見守り役に徹していますが、当時もそうだったのかは判然としないところです。
葉月しずくの思考や人格は原作ではさほど深くは描かれていませんが(ギャグキャラに徹することが多いので)^6、初期設定においては「知的」で「世間ずれしている」がそれでいて「実力主義」的な人物であるとされています。八神入社直後のコンペでメインキャラデザに彼女を抜擢したのも葉月であり(3巻30話)、八神の実力と性格をよく知る人物であることが伺えます。
この辺は推測と言うかほとんど私の願望なんですが、葉月しずくはこういう人間のどうしようもない機微が頭でわかってしまう人なのだと思います。というかそうであって欲しい。一応フェアリーズストーリーのシナリオライターなわけですし。初期設定集にも「キャラクターを殺すのがつらくてソフィアに名前をつけることができなかった(から代わりにキャラデザ班にふった)」とかいう激エモエピソードが載ってるぐらいの人ですし(画集p.112)。理知的なのに感情の重たい女は最高!!!!!また話が脱線しましたね。
原作二巻の25話(アニメ最終話相当)において八神コウと葉月しずくの距離感は絶妙なものです。八神コウも葉月さんにだけは頭があがらないというか、何かを見透かされたような振る舞いをしているのを見ると、本当にありがとうございますという気持ちになりますね(?)。葉月しずくの八神に対する共感の入り混じった友愛の眼差しというか、見えない友情が感じられて本当に美しい関係だと思います^7。こうした前提から、葉月しずくはこの件について八神コウの数少ない理解者であった、とするのは無理のない二次創作設定になりそうです。
遠山りん vs 葉月しずく
ここまで、八神コウ過去編における遠山りんと八神の関係・葉月しずくと八神の関係について見てきました。では次にこの時期における遠山と葉月の関係について見ていきたいと思います。
さて、上のような前提を踏まえると、この時葉月は一見遠山よりも有利な位置にあるように見えます。実際、遠山りんはいつまで経っても八神に告白しないですし、その気になれば葉月が取っちゃうことだって訳ないこととは思われます。しかし敢えてそうしないのは何故でしょうか。年上として気を使っているから?八神には遠山と幸せになって欲しいから?^8どちらも間違いではないでしょうが、もう一つ重要な要因があると考えられます。
確かに遠山りんは八神コウの苦悩を論理的には理解していないかもしれません。しかし一方で、葉月しずくは遠山りんのように、たとえ分からなくとも献身的に支えるのだといった強い覚悟があるわけではありません。「Little Bitter Duet」の二番のサビに「一人になんてさせないよ」という歌詞がありますが、そこまでのお節介を焼くだけの根性(ないし性分)は、葉月しずくは持つことができなかったように思えます。
葉月はどうしてもこの点で遠山りんには勝てない、ということも頭でわかってしまうのだと思います^9。そして、葉月が遠山りんの恋愛を素直に見守っていられるのもこうしたことが背景になっている。しずコウりんは本当に険悪にならない調和の取れた三角関係だと思います(そして葉月しずくの場合、それを経て最後に戻る先が、大和・クリスティーナ・和子さんなのでしょう)。
まとめ
ざっくりとでしたが、いかがでしたでしょうか。何かいままで自分の同人誌で描いてたことを文章に起こしただけという気もしますが、ストレートなコウりんだけでなく少しでもしずコウりん沼に興味を持っていただける方が現れることを願っています。
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参考文献
- NEW GAME! 1~5
- TVアニメ NEW GAME! 1話 ~ 13話
- TVアニメ NEW GAME! Blu-ray vol. 1 - 3
- NEW GAME!画集 FAIRIES STORY(芳文社)
[^1]: 『NEW GAME!画集 FAIRIES STORY(芳文社)』のコメント(p.30)によると、コウりんは唯一「意識的に百合として描いている」カップリングとされています。
[^4]: 『NEW GAME!画集 FAIRIES STORY』p.108